2016年6月27日月曜日

英語の苦労(承前)

前回, TOEIC や TOEFL , IELTS について書いた.そろそろ書いておかなければ永遠に書かないことになりそうなので, GMAT について書いておきたい.

この GMAT という試験はある種の専門職大学院に入学するための国際的なセンター試験のようなもので, Graduate Management Admission Council という米国の非営利団体によって主催されている. GMAT の難易度は,ずいぶんと苦労させられた TOEFL などをはるかに上回るもので,ひとまず受けてみようと特に準備もせずに初めて受験したときには,いま思えばそれはまったく無謀かつ軽率な試みであったが,唖然とさせられたことが思い出される.ほとんどの人はこんな試験を受ける必要はなく,それは実に幸いなことであると思われるが,私の場合,不幸にして受験する必要が生じてしまったため,本当に苦労した.年単位の努力がこれも必要だった.このブログを読む可能性のある人で GMAT を将来受ける人はごくわずかだとは思うが,わずかでも後に続く人がいることを願って,苦労を記録しておきたい.

GMAT は以下の4科目(?)からなる:

  1. Analytical Writing Assessment (AWA)
  2. Integrated Reasoning (IR)
  3. Quantitative
  4. Verbal

いわゆる GMAT のスコアとして問題になってくるのは Quantitative と Verbal で,これらの2つのスコアから Total Score と呼ばれる,200点から800点の間のスコアが出される.目標にもよるが,概ね600点後半以上を得ることが GMAT では必要になってくる.面倒なので AWA と IR はここでは脇に置き, Quantitative と Verbal について書いておきたい.

Quantitative

Quantitative は数学の問題が出題される.75分間で37問を解く必要がある.日本の学校教育では中学校の後半から高校の前半に習うような問題が出題されるため,日本人にとっては与し易いが,問題は全て英語であるため,数学の問題に用いられる用語を一通り覚える必要がある.1問あたり約2分で解かなければならないことに加えて,計算が面倒で,また誤りを誘うようにわざと設計された問題が多い.ただ,あとに述べる Verbal は日本人にとっては(英語を母語としない話者には)相当難しいので, Total Score のためには Quantitative はほぼ満点を取る必要がある.

Verbal

GMAT の Verbal は以下の3種類の問題からなる.全体では Quantitative と同様に75分だが,問題数が41問とかなり多い.加えて, Quantitative もそうだが,コンピュータ適応型試験なので(項目反応理論に詳しい方もいるであろう),最初の方は時間をかけて問題をとき,配点が高い問題が出題されるようにしつつ,一方で全ての問題を解き切ることは容易ではないので長文読解問題である Reading Comprehension を適宜「捨てる」など,時間配分が決定的に重要になってくる.

Reading Comprehension

GMAT で最も問題になってくるのがこの Reading Comprehension で,難解な語彙で書かれた文章を急いで読解した上で込み入った質問に解答しなければならない.文章の長さは,概ね ACL Format で書かれた論文1ページの半分から4分の3というところ.問題は文章の主題が多岐にわたっているところで,経済学などの社会科学に関するものや天文学などの自然科学に関するものなど,様々な主題について書かれた文章を理解するためにはまず語彙を大幅に補強する必要がある.これが一番大変だったところで,見たこともないような単語を大量に覚える必要があった.もうこればかりはどうしようもないので,延々と単語を覚えていた.文章の難しさは TOEFL 以上だが,出題される問題は TOEFL と同じようなものなので,とにかく単語を覚える必要がある.75分のうちに長文読解を全て完全に解くのはなかなか難しく,場合によっては適宜捨てる必要が出てくる.

Critical Reasoning

GMAT 独特の試験がこれで,1パラグラフの文章を読んで,その中で展開されている論理を最も攻撃する,あるいは補強するなど,文章の論理的な構造を適切に理解してそれに対応した解答を選ぶ問題.文章がさほど長くないこともあり, Reading Comprehension よりは与し易いが,意外と難しい.

Sentence Correction

Sentence Correction は,我々自然言語処理研究者には馴染み深い,文法誤り訂正の問題で,解答者は人間英語文法誤り訂正器になりきる必要がある.具体的には1つの例文に対し,少々異なる4つの文と元の文が1つ選択肢として出題され,正しいものを1つ選ぶことになる.時間との戦いとなる Verbal においては, Reading Comprehension と Critical Reasoning の問題は適宜取捨選択する必要が出てくることがあるため,相対的に与し易い Sentence Correction をほぼ完璧に解く必要がある.ただ GMAT の Sentence Correction が問うてくる文法はかなり定型的なものであるため,文法知識を一通り覚えておけば何とかなりやすい.

GMAT との戦いをひとまず終えた身として切に思うことは,独学するべきではなかった,ということに尽きる.教科書を買って独学で勉強していたが,学費を払って GMAT 対策の学校に通っておいた方がはるかに効率がよかったのではないかと思う.

一方,言語処理を仕事にしていることは, GMAT の勉強に対しては少なからず役に立ったように思う. Quantitative については,多少の数学を道具として仕事に使う身としては容易に対処できるものであったし, Verbal の特に Sentence Correction で必要になってくる文法の知識は言語処理で必要になる知識と親和性が高かった.副次効果としては Sentence Correction の勉強を通じて,学生の書いた論文の添削が素早く正確になった……ような気がする.

もし同業者の方で GMAT を受けることになる人がいれば相談してください.多少,助言できるのではないかと思います.

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